“感性”を研ぎ澄まし、循環をつくろう。ごみの現場で考える、サーキュラーな世界へのヒント
「コケコッコー!」
威勢の良い鳴き声が響き渡り、鶏たちが駆け回っている。虫のための家、コンポスト、オーガニックの農園などがあるここは、微生物から植物、動物まで、さまざまな生物に触れられる場所だ。そこに広がる青い空からは、太陽の陽が降り注ぎ、木々や葉のさわやかな香りが身体全身を駆け巡る。
その自然豊かな場所のなかには、実は産業廃棄物の資源再生工場がある。埼玉県入間郡にある「三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)」と呼ばれるそこは、産業廃棄物の中間処理を行う石坂産業株式会社(以下、石坂産業)が企画、運営を行う体験型のサステナブルフィールドだ。生態系の一部として、自分たちの暮らしだけでなく「その先への配慮」を大事にする生き方をつぎの世代へつなげていきたい──そんな同社の想いからつくられた場所である。
産業廃棄物と美しい自然が隣り合わせの三富今昔村で、2023年2月22日、あるイベントが開催された。「crQlr Summit(サーキュラー・サミット)」。株式会社ロフトワークとFabCafeが主催するグローバル・アワード「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)」の受賞者、審査員、そして循環型の取り組みに関心のある人たちが集うイベントだ。
循環型経済をデザインするサーキュラー・アワードの授賞式を兼ねて行われた同イベントでは、産業廃棄物の資源再生現場と里山の見学、オーガニックファームで獲れた野菜を使った食事の提供、廃棄物からできた楽器を使った音楽パフォーマンス、そして「地域と循環」をテーマにしたトークセッションが行われた。
“五感”でサーキュラーを体感してほしい──企画者のその想いの通り、参加した人たちは、心と体を開放しながら「循環」に想いを巡らせていた。本記事では、これからの循環型社会に向けた取り組みを行う人にとってヒントとなるであろうトークセッションの内容を中心に、当日の様子をお届けしていく。
地域でサーキュラーエコノミーを推進していくなかで日々感じていることや難しさ……実践者たちの考えやさまざまな想いが、これから一歩踏みだそうとしている人の参考になれば嬉しい。
「つくる」「捨てる」を透明化する大切さ
建築系建物を解体した際に出る廃棄物であるコンクリートや木材、土砂系混合物……あらゆる産業廃棄物が仕分けされ、砕かれている。モノを買って、使って、ごみ箱に捨てる。その後のモノの行く末は見えなくなり、知ろうとしない限り、私たちが目にすることはない。
1967年の創業以降、産業廃棄物の処理を行ってきた石坂産業には、毎日およそトラック300台分のごみがやってくる。減量化、リサイクル化率は98%。集まったごみのほとんどが、新たな製品や燃料、動物の敷材など、何らかの形に生まれ変わっている。石坂産業は、ごみとして不要とされたモノが仕分けられ、再資源化される過程を誰でも見学できるようにしている。
“ごみ”が高く積み上げられた山。そこには、建物の解体前の生活が伝わるようなモノも多く見られる。見学するなかで見えてきたのが、蛇口やドアノブ、防火性の壁などの生活に便利なものは、複合素材であるがゆえに分解が大変なこと。作る人と使う人にとっては都合が良いモノが、処理の現場では課題となっていた。
それからもう一つ、目の当たりにしたのが、産業廃棄物の多くが、「人」の手によって仕分けられ、分類されている光景だった。
「機械ではなく、人が一つ一つ選別している様子を見ることで、『つくる』『使う』だけでなく、『捨てる』責任を考えられるようになると思った」
「モノが最終的に行きつく現場を見ることが、生産者のつくり方も変えるのではないかと感じた」
「廃棄の現場はもちろん、つくり手のつくるプロセスが見えることが、『買う』という行為、そして使用後の行為も変えるかもしれない」
「つくり手が作ってから、回収されて壊されるまでの間に何があったか、そのストーリーが気になる」
これらは、その後行われたトークセッションで、登壇者の方たちによってシェアされた感想だ。
施設内を案内してくださった石坂産業のスタッフの一人も、「サーキュラーエコノミーを推進していくためには、つくる人、使う人、処理をする人が手を取り合って『つくる』という循環を回すことが大事なんです」とおっしゃっていた。
SDGsの目標12では、「つくる責任」や「使う責任」に言及されている。それに加えて「捨てる責任」を意識した行動がどれほどか大切か。人の手で処理されている光景から、そんなことを想った。ごみ箱に入れた数時間後、それらがどうなっているのか、少し想像してみるだけで、私たちの行動は変わるかもしれない。
「気持ちいい」という体験を通して、個人が参加できる仕組みをつくる
工場見学の後に行われたトークセッションは、それぞれ異なる場所、異なる分野で活動する受賞者、審査員によって行われた。
株式会社バリューブックス 代表 鳥居希さん、オイシックス・ラ・大地株式会社 松山麻理さん、株式会社PlayBlue 青野祐治さん、九州大学大学院 樋口明彦さん、株式会社飛騨の森でクマは踊る 岩岡孝太郎さん、ロフトワーク京都 小川敦子さん、それからモデレーターの木下浩佑さん。
7名によるトークは、資源再生工場見学の感想から始まり、それぞれが循環を軸にした活動を行う理由、循環の仕組みを広げていくために大事だと思うことなどに展開した。
東海圏における循環を描くプロジェクト「東海サーキュラーエコノミー」のプロジェクトマネージャーを担当し、モノづくりを行う人たちと共創してきたロフトワークの小川さんは、今回のような廃棄の現場を見る機会の重要性をこう話す。
小川さん「これまでモノづくりを行う人たちと色々なプロジェクトに取り組んできたなかで感じてきたことの一つが、廃棄の設計ができていないということです。そのうえで、特に再生、循環するモノづくりのために非バージン材(新品でない素材)に切り替えていくときには、今回のような廃棄の現実を見て知ることが大事だと思いました。
『廃棄』も生産工程の一つとして含めたうえで、すべての企業がこの現場を見るべきだと感じましたし、廃棄という言葉はなるべく使わない方がいいと考えています」
“廃棄のリアル”を通して、捨てる責任、つくる責任について考えた後、モデレーターの木下さんから登壇者に「改めてなぜ、今その事業に取り組んでいるのか」という問いが投げかけられた。それに対して、アパレルロス問題と地域活性を目的とした、染め直しアップサイクルプラットフォーム「somete」や服の循環を生み出すコミュニティ「まちのクローゼット(まちクロッ)」をプロデュースする青野さんはこう答える。
青野さん「私はもともと埼玉の越谷でローカルメディアをやっていたのですが、そのなかで偶然出会ったのが、産業自体が危機的状況だった藍染めでした。そのとき、自分が着ていた白いシャツが黄ばんでいたので、『じゃあ染めてもらおう』と頼んだのが、someteを始めたきっかけです。実際に染めてもらったとき、今までにない感情を抱きました。そうした経緯で今の事業をすることになりました」
また、宅配ブランド「らでぃっしゅぼーや」で資源や食器の循環サービスを提供する「ぐるぐるRadish」のブランディングに携わった松山さんは、長年生産者と生活者を繋いできた同社が、改めて循環を軸にした取り組みを始めたことについて、こう話す。
松山さん「『食』って、私たちみんなが365日絶対関わっていることで、なかでも台所はとても私的な場所、自分ですべての権限を握っている領域です。だからこそ、一人ひとりの意識で変えられることでもあると思っています。そして、そのときに大事なのが、『体験する』ことだと考えています。
たとえば、コンポストの体験は、先程青野さんがおっしゃった服を染める体験に近いと思っていて。これまで家の中で臭っていた生ごみが、肥料になってまた野菜を育て、台所はすっきりきれいになる……そうした『気持ち良い』という体験が台所で生まれることで変わっていくと思っています。食の循環は、大きな意味では一次産業や環境の話につながりますが、個人で取り組める領域。そういう意味でも、ぐるぐるRadishのような一人ひとりが参加できる仕組みが大事だと感じています。
オイシックスのコーポレートの理念には、『持続可能な社会を目指す』とあり、『循環』という言葉が昔から使われてきました。時代が変わっても普遍的に大切なことだからこそ使われ続けてきて、ずっと理念にもあるのかもしれません」
信頼関係を築く小さなコミュニケーションの工夫
染める体験、コンポストの体験、そのいずれも「やらないと」ではなく、「やってみたら良かった」というのが、根底にある。そうした原体験、「感性」の部分が、循環の輪の中に多くの人を巻き込んでいくために大事になるかもしれない。そんなコメントが木下さんからあった。
続いて、「日々の活動のなかで、予想していなかった出来事はありますか?」との質問に対して、阿蘇の山に眠る大きくなりすぎた杉の木でガードレールを製作、阿蘇地域に設置する「ASO-DEKASUGIガードレールプロジェクト」を行う九州大学准教授の樋口さんは、「プロジェクトのことを話したとき、最初は冷めていた森林組合の人たちが、アワードの受賞後、大きくなりすぎた大径木(だいけいぼく)がなんとかなるといいな、と僕らの企画に感じてくれるようになったんです」と話した。
こうした地域の人と関係性を築いていくことの大切さについては、岐阜県飛騨で同じ木の活用に取り組む、「飛騨の森でクマは踊る」の岩岡さんも感じていた。
岩岡さん「新しい何かにかかわることは、最初はみんな面倒くさいと思うのが普通です。でも、そういう人たちに対して、少し丁寧にコミュニケーションすることで伝わることもあると思います。人と人なので。そうして協力してもらえるようになると、それによって地域の人たちにも仕事が増えるなど、良い関係が生まれていくと考えています」
木下さん「サプライチェーンのなかでかかわる人とどのようにコミュニケーションしていくかは、循環の仕組みづくりのなかで、『生活者(消費者)をいかにして巻き込んでいくか』という話とつながる気がします。上流から下流のヒエラルキーではなく、目の前にいる人たちと一緒に何をできるか考えると、すぐにでもできることがあるかもしれませんね」
「小さい循環」から始めていくこと
最後に、木下さんから「循環のモデルを社会実装しようとしたときに直面する課題とその解決策についてどのように考えているか?」と質問があった。これに対して、小川さんが強調したのが「小さな循環」から始めるということ。
小川さん「これまで2年程かけて、循環の設計を考えていました。それを経て気づいたことが、大きくやろうとすると失敗するということ。まずは大体500人くらいの規模で地域の中でやってみることが大事だと考えています。その500人の小さな輪が地域の中に増えていき、『そろそろ2000人規模で循環の輪がつくれそうだ』となって初めて、『じゃあ、どうやって無駄な部分を省きながら大きな輪を描いていけるか』を話し合えると思っています。
そのように、500人くらいの規模感で実証実験を繰り返していくことで、企業も生活者も無理なく対等な関係で、循環モデルを導き出していく方法を考えていけるのではないでしょうか。国がつくったからやる、というのは違うと感じていて。みんなでプロセスをつくっていく過程を見せていけると、一つの県や市で循環できていくのではないかと考えています。
もちろん、これは一つの回答でしかないのですが、小さいことからやっていく、それがどんどん大きくなっていくのが現時点での理想のあり方だと思っています」
編集後記
トークセッション後、参加者同士が少人数のグループに分かれてディスカッションを行った。筆者が参加したグループのメンバーのなかにはモノづくりに携わる方々が何人かいて、その際に「どうすれば私たちはモノを長く使うだろう?」という話題になった。
サーキュラーエコノミーの考え方では、できるだけモノを長く使い、その「寿命を伸ばす」ことが大事だとされる。上述の問いは、そんななか出された問いであり、その答えの一つとして「“イイナ”と思えること」という意見が挙がった。つまり、理屈ではなく、感覚として魅力的に感じるということ。トークセッションのなかでは、「やって良かった」と感じる原体験が大事という話もあったが、モノや取り組みが息長く続いていくためには、「心が動く」ことが大きなカギを握るのかもしれない。
イベントの最後のプログラム、音楽演奏の時間。アーティストたちは、感情を爆発させ、見ているこちらが笑顔になってしまうくらい楽しそうに廃材楽器を演奏していた。
「楽しい!」「心地よい!」「素敵!」──そんな誰もが生まれながらにして持っているはずのシンプルな感情こそが、循環型の社会へと導く原動力になると感じた瞬間だった。
【参照サイト】crQlr Summit 2023 JAPAN 「五感で学ぶ、地域に根ざしたボトムアップな循環型経済」特別ツアー
【参照サイト】石坂産業株式会社
【参照サイト】三富今昔村
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。
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