【イベントレポ】サーキュラーデザイン戦略をカードで学べる「Circularity DECK」体験会
2050年に世界人口が98億人に達し、現在の人類全体の生活を支えるためには、地球が1.5個必要だと言われています。これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としたリニアエコノミー(直線経済)が持続可能な仕組みではないことが明らかになるなか、素材や製品を経済システムに投入する最初の段階から廃棄や汚染が出ない設計を行い、それらをできる限り高い価値を維持したまま循環させ続けることにより自然の再生を目指す「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への移行が求められています。
リニア型ビジネスモデルから循環型のビジネスモデルへ移行するにあたっては、抜本的なシステムの改革や生活者の意識・行動変容が不可欠であり、従来とは全く異なる角度から製品やサービス、ビジネスのあり方を捉え直すクリエイティブな視点とアイデアが求められています。
そのアイデア創出のためのツールとして、オランダ・マートリヒト大学で循環型ビジネスモデルのイノベーションに関する研究に従事するJan Konietzko(ヤン・コニエツコ)教授が開発したのが、「Circularity DECK(以下、サーキュラリティデッキ)」です。
今回は、このサーキュラリティデッキの日本版を展開している株式会社メンバーズとともにIDEAS FOR GOODが企画する「気候危機にクリエイティブに立ち向かう『Climate Creative』」の中で実施した「サーキュラリティデッキ体験会」の模様をレポートします。サーキュラーエコノミーの事業開発に関わる人・社内向けの教育ツールとして興味を持つ人20名ほどが参加しました。
イベントの流れ
- インスピレーショントーク
- グループワーク①身近なモノのCircularity(循環性)を見てみよう
- グループワーク②Circularityをもっと高めるアイデアは?
- グループワーク③サーキュラーデザインのコンフリクトとシナジーを考える
- 共有
- グループワーク④プロジェクトリーダーとして製品化・サービス化するとしたら?
- ネットワーキング
サーキュラーデザインのジレンマとシナジー
サーキュラーエコノミーを実現するうえで核となるのが「サーキュラーデザイン」です。サーキュラーデザインとは、廃棄物・汚染が出ない設計を行い、原材料と製品を高い価値を保ったまま循環させ続けることで自然を再生できるようなプロダクト・サービス・ビジネスモデル・システムを設計すること。
サービスやインフラの環境負荷の80%はデザイン(設計)の段階で決まるとも言われており、最初にどのようなデザインができるかが循環経済の実現において大きな鍵を握っているのです。
サーキュラーデザインには、再利用のためのデザイン、解体のためのデザイン、改修のためのデザイン、リサイクル可能性を高めるデザイン、耐久性向上のためのデザインなど、素材・製品・サービス・システムレベルを対象とする様々なデザイン戦略が存在しています。
しかしながら、異なるサーキュラーデザイン戦略の間で「コンフリクト」が発生するケースも少なくありません。例えば、製品の耐久性を高めるための複合素材の接合がリサイクル可能性を下げるケースなどがその代表例です。また、循環型サービスの提供に伴うリバースロジスティクスが輸送時におけるCO2排出を増やすといったジレンマもあります。このようなコンフリクトに直面した際、サーキュラーデザイナーは何を優先するべきなのか。あるいは、そのどちらも解決する第三の答えや、相乗効果を生み出すようなシナジーが存在するのか。
こうしたサーキュラーデザイン戦略の本質を理解し、資源調達から製造、利用、回収、再資源化までのバリューチェーン全体における一貫した循環型ビジネスモデルとシステムの創出を考える上で役立つのが、「サーキュラリティデッキ」です。
サーキュラリティデッキとは?
サーキュラリティデッキとは、サーキュラーエコノミーの原則・戦略をもとに、新しいアイデアや取り組むべきアクションを特定するフレームワークをカードデッキにしたものです。デッキは5つの資源戦略と3つの階層をかけ合わせた、51枚のカードで構成されています。それぞれのカードには、資源戦略と階層をかけ合わせたアイデアや視点、その事例が書かれており、サーキュラーデザインの発想をサポートする作りになっています。
51の視点で考える「歯ブラシのサーキュラーデザイン」
今回のワークショップでは「歯ブラシ」をテーマに、参加者はグループに分かれて「よりサーキュラーな歯ブラシのあり方」を考えました。
まず参加者はプラスチックの歯ブラシ、電動歯ブラシ、竹の歯ブラシといった、現状目にする歯ブラシの中から1種類、今回テーマとする歯ブラシを選びます。そして、51種類すべてのカードと照らし合わせ、現状の歯ブラシにどのサーキュラーデザイン戦略が採用されているかを「Yes/No」でカードを振り分けながら現状把握していきます。これまで考えたことがないような視点も書かれたカードを前に、参加者は早くも「プラスチック歯ブラシはリサイクル材からできているかもしれない」「電動歯ブラシもパーツ分けすれば再利用できるのでは?」など、視野を広げながら意見を交わしていました。中には「Yes/No」で答えることは難しく、「中間」を作るグループもありました。
その後、サーキュラーな歯ブラシの新しいモデルを考えるフェーズに移ります。各グループは5つの資源戦略がそれぞれ1つずつ入るようにカードを選びます。「制約はクリエイティビティの母である」という言葉があるように、ここであえてカードを絞ることで参加者のクリエイティビティを促すとともに、資源戦略を偏らせないことでアイディエーションにおける多様な切り口が担保されます。
このカード選びでも多くの議論があり、「製品回収」「単一素材でのデザイン」など想像しやすい戦略から選ぶグループもあれば、「話題になるのでは?」と、「データ追跡」といった歯ブラシとは一見無縁の戦略をあえて選ぶグループもありました。
次は、選んだカードを資源戦略と階層別にマッピングし、カードに書かれているサーキュラーデザイン戦略を具現化するアイデアを出していきます。「ドラッグストアに製品回収ボックスを設置する」「アーティストとコラボして使い続けたくなるデザインにする」など、カードの言葉にインスピレーションを受けながら様々なアイデアが飛び交います。「竹とデジタル化はどうつながるのか…」と頭をかかえるグループも。
アイデアを発散したあとは、バリューチェーン全体で一貫性のあるサーキュラーデザイン戦略が採用されているかどうかを検証していきます。そのためには、「コンフリクト」「シナジー」という2つの切り口でアイデア同士をつなげ合い、アイデアを収斂させていきます。
「耐久性とサブスクリプションはシナジーがありそう。耐久性だけだと売れなくなるが、サブスクにすれば耐久性が強みになる」「高級路線とリサイクル可能性は一見コンフリクトしているが、柄の部分は高級にして、ブラシ部分は交換できるアイデアはどうか」「回収モデルと企業の共創はシナジーの関係で、ドラッグストアと地元の歯医者の連携を考えられないか」など、コンフリクトを解消し、シナジーを高めるという観点でアイデアを見直していくことで革新的な、より優れた循環型のビジネスモデルに収束していきます。
これらのワークを経て、最終的なアウトプット。各グループからは「耕作放棄地の竹からできた歯ブラシをホテルで提供し、使用後は回収してバイオ炭化、お部屋の消臭材として利用したり、肥料として活用して育った野菜をホテルで提供する」、「ファーストシューズのように『ファースト歯ブラシ』を子どもにあげ、柄は生涯にわたって使いながら、ブラシ部分のみ交換してもらう」など、非常にクリエイティブな「サーキュラー歯ブラシ」が提案されました。
本当にそのアイデアは環境負荷を下げるのか?
出たアイデアに対し、「ビジネスとして成立しうるモデルか」「ユーザーが本当に欲しいものなのか」「本当にこれで環境負荷が下がったと言えるのか」といったビジネスモデルやユーザー体験、環境負荷の検証といったクリティカルに見つめるまなざしも必要です。
特に今回のWSで強調したのは、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点。例えば、回収モデルによる輸送でCO2は増えないか、歯ブラシ使用時にかかる水の使用量を減らせるプロダクトデザインはどんなものか、製品寿命を延長するためのマーケティング施策とはなにか、歯ブラシという人々の健康を守るプロダクトの製造廃棄過程で人体影響のある物質排出を伴うプロダクトデザインになっていないか。こうした製造から輸送・使用・回収までデータをベースに実際の環境負荷を可視化していくプロセスが、より本質的でクリエイティブなサーキュラーデザインを創出するカギとなります。
カードという特性を生かし、ゲーム感覚でアイディエーションができるのもサーキュラリティデッキの魅力の一つ。その上で、51の切り口に目を向けることで、思考を広げ、サーキュラーエコノミー全体を俯瞰し、かつこれまでにないアイデアの構築を促してくれます。サーキュラーデザインにおいては、開発、製造、輸送、マーケティング、サービスなど、バリューチェーン全体を横断的に考える必要があり、ステークホルダーとの共創も不可欠です。サーキュラリティデッキはバリューチェーン上の多様なステークホルダーと、各場面で課題を共有し、アイデアの発散・収束を助ける共創ツールとして活用できます。
一筋縄ではいかない循環型ビジネスの実装。これにどのようにクリエイティブに立ち向かうべきか、Climate Creativeとの共創に興味のある人はお気軽にご相談ください。
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