「ごみの時代」にデザインが担うもの。英・Design Museumの企画展から考える
現代にもっとも普及した素材、それは「ごみ」です。私たちは毎年、世界中の成人体重の7倍にもなる重量のごみを排出しています。まぎれもない「ごみの時代」に生きているといえます。
「『ごみの時代』に、デザインは何ができるか?」──英国・ロンドンにあるDesign Museumが最新の企画展で投げかけた問いです。人類が排出するCO2のうち38%は建設業界によって排出されています。年間9,200万トンの廃棄を出しているファッション業界は、航空業界に次ぐ二番目の「汚染者」であると名指しされています。そしてプラスチックの廃棄を最も多く出しているのは「包装」。設計者やデザイナーはこうした業界に深く関わっているがゆえに、今後大きな変化を求められているのです。
世界中の「ごみ」の現状は深刻です。その深刻さに焦る方もいるかもしれません。しかし、もう変革をするかどうか悩んでいる時間は確保されていません。今こそ、問題の深刻さよりもデザインの可能性を模索するときではないでしょうか。
記事の中には、実際にDesign Museumで掲げられていたたくさんの「問い」をちりばめています。読者の皆さんにも生活を振り返りながら、ともに「問い」の答えを探してもらえると幸いです。
世界中で排出されるごみのデータ
ごみは私たちの生活圏外で処理されることが多いため、日頃どの程度のごみが排出されているのか、なかなか想像がつかないかもしれません。展示の最初のコーナーは、ごみについて感覚的に理解するための図解となっていました。
改めて振り返る、ごみの歴史
「ごみ」の歴史について考えたことがあるでしょうか。「ごみ」とは特定の物質を指すわけではなく、人類が様々な活動をした結果出てきた「うまく扱えないもの」の総称です。企画展の最初のコーナーは、こうした「ごみ」にまつわる歴史を振り返るものでした。
「ごみ」はいつから出現した?
私たちは当たり前のように「ごみ」という言葉を使っていますが、「ごみ」という概念の歴史はそう古くはなく、せいぜい250年だろうと言われています。産業革命によって製造業の生産性が上がり、その副産物として「ごみ」が誕生したのです。それまではそもそも「廃棄する」という概念がありませんでした。
19世紀にはすでに、ウィリアム・モリスなどが「機械による大量生産」のもたらす悲惨な結果に警鐘を鳴らしていました。しかし、その後の戦争、さらなる経済成長の時代を経て現在に至るまで、私たちはモリスらが危惧したままの時代を歩むこととなります。
ポイ捨ての歴史
ポイ捨てが始まったのは第二次世界大戦後1950年代と言われています。大量生産が可能になると、素材一つ一つの価格が下がり、ものが壊れたときに「修理する」よりも「新しく手に入れる」方が安く、楽に済むようになりました。
サーキュラーエコノミー移行への弊害にもなっている「循環させるよりも、買った方が早い」という考え方は、実は70年前に生まれたばかりのものなのです。使い捨てのカップ、カトラリー、おむつなどはこの時期に出現したと言われています。新型コロナの流行は、衛生用品を中心にさらに使い捨て商品の需要を拡大させました。
なぜ私たちはこんなにもプラスチックを愛しているのか?
生活の中で出るごみとして環境へのインパクトが大きい「プラスチック」。減らさねばと思いながら、なかなかゼロにできないという人も多いのではないでしょうか。私たちがこれほどまでにプラスチックに依存してしまった理由──それは他の素材には替えられないプラスチックの良さにあります。
まず、なんと言ってもプラスチックは軽く、あらゆる人にとって扱いやすいのが特徴です。そして「うちのばし」ができるため、成形が容易です。さらに耐久性もあり、水分にも強く、鮮やかな色をつけることができます。この夢のような素材は、現在ヘルメット、ペットボトル、クレジットカードから車まで、至るところに使われています。しかし、そうしたプラスチックを大量生産してしまったがゆえに、それを燃やして廃棄する際に排出される有害物質、動物がプラスチックごみを食べてしまうことでの生態系破壊など、その影響は計り知れなくなっているのです。
ごみに対する価値観を変革する、デザインの力とは?
「ごみ」の種類の多さ、量の多さに悲観的になる人も多いでしょう。今後のことを考えると、まず必要になるのはごみを「もう使えないもの」ではなく、「使える素材」として捉えられるようになることです。その発想こそが私たちに必要なことであり、多くのデザイナーが役割を担うところでもあります。現在、デザインの力によって「廃棄された素材」の実力を実感できるプロダクトが一部すでに市場に出回っています。
冷蔵庫からできた椅子
こちらの椅子は3Dプリンターで作られたもの。制作にかけられた時間は3時間半。この椅子が何の素材からできているか察しがつくでしょうか。正解は「廃棄される予定だった冷蔵庫」。なめらかな曲線を描く背もたれや座面は、プラスチック独特の冷たさを感じさせません。
コミュニティで「ごみ」に立ち向かう、徳島県上勝町の挑戦
2003年、日本の一つの小さな町がゼロウェイスト戦略を立ち上げたことが、いまや世界で話題になっています。その町の名は、徳島県上勝町。上勝町の取り組みで印象的なのはなんといってもごみの「45分類表」です。行政がただ戦略を掲げるだけではなく、住民が自ら手を動かし、地道ながら着実に実現されるコミュニティ・ベースのゼロウェイスト戦略に、引き続き注目が集まっています。
廃棄漁網でできたAdidasのスニーカー
Adidasのこのスニーカーはすべてリサイクルされたプラスチックでできたものです。アッパー部分に使われているのは深海に沈んでいた漁網で、残りの部分にはモルディブ付近に漂流していた海洋プラスチックが使われています。2017年から2,500万のスニーカーが生活者の手に渡っているといいます。
ステラ・マッカートニーのサーキュラーコレクション
いまや多くのハイブランドが、アパレルの素材に「サーキュラー」「アップサイクル」の考え方を取り入れるようになりました。ステラ・マッカートニーはその先駆であるとも言われています。ステラ・マッカートニーのコレクションでは、植物性・動物性いずれの素材においても、バージン素材が使われないことが掲げられました。廃棄物をアップサイクルして作られたものもあれば、自社の古くなったコレクションの衣類を裁断し衣服の一部にしているものもあります。
「ごみ」概念の先へ──新しい生活様式を考える
これから私たちはどのように「ごみ」に向き合っていけば良いのでしょうか。その一つのヒントとなるのが、「サーキュラーエコノミー」の考え方。サーキュラーエコノミーでは、プロダクトやサービスの使用過程で、そもそもごみが出ない(形を変えながらも循環し続ける)設計やデザインが求められます。今後私たちの生活様式を大きく変える可能性を秘めた、そうした循環型のプロダクトが少しずつ出現しています。プロダクトの「素材」、管理から使用までの「過程」に注目してみてほしいと思います。
分解できる木製の電子機器部品
多くの電子機器には「プリント基板」と言われるプラスチックなどでできた板状の部品が組み込まれています。電子部品や集積回路(IC)、それらを繋ぐ金属配線などを実装したもので、コンピュータや電子機器の心臓部とも言える重要な部品です。ここに使われる銅・金・銀などのメタル類は、再利用が難しく、そのまま廃棄されてしまうことも多くなっています。SOLUBOARDはそうしたプリント基板含まれる素材を自然素材で代替した商品。再利用が容易なだけではなく、製造過程で60%のCO2排出量削減につながるといいます。また再利用や修理の工程が簡単になるよう、解体が前提とされた構造になっています。
とうもろこしの皮でできた家具
幾何学模様の壁は、実はとうもろこしの皮からできたもの。最近、多くの農園では遺伝子組み換えの種子を使ったり、殺虫剤を使ったりすることで、とうもろこしの皮の色が一様になってきているという現状があります。一色だけでは、このように美しい模様を作ることはできません。メキシコの農家との協力体制の中でこの壁を構築したデザイナーは、生物多様性を重要視するメッセージを込めてプロダクトをデザインしたそうです。
部品ごとに修理できるスマホ・パソコン
電子機器のもたらす環境負荷は小さくありません。私たちがスマートフォンやパソコンを長く使えば使うほど、環境負荷は低くなります。しかし、数年使用するとデバイスのどこかに不具合が出てきてしまい、買い替えを余儀無くされることも多いのが実情。例えば「バッテリー」に不具合があったとしても、デバイス全体を買い換えなければいけないということになります。それでは、「バッテリー」だけが交換できたとしたら、私たちはもっと長くデバイスを使えるのではないか。そうした視点に立って作られたのがfairphone・framework laptopです。それぞれのデバイスはユーザー自らが解体できるようになっており、簡単に修理ができます。特定の部品にアップグレードがあった場合も、その部品だけを交換することで同じデバイスを使い続けることが可能となっています。
海藻で作られた、食べられる包装
イギリスのスタートアップ企業が開発したNotpla。液体を保存するプラスチック包装を海藻で作られたフィルムで代替することにより、液体を包むフィルムごと飲める・食べられるようにしてしまうという発想です。マラソンの給水スポットの水入れや、ファストフードのケチャップ入れとして、実際に使用されています。Notplaは今まで30万以上の使い捨てプラスチックを代替してきたといいます。
生活者として「ごみ」との向き合い方を考える
実際に企画展に足を運ぶと、ごみの問題に直面しながらもポジティブな気持ちが湧いてきました。それはこの企画展が「すでに出てきた弊害だけではなく、これからの可能性を考えよう」というポジティブなメッセージをもとに、情報やプロダクトのキュレーションを行っていたからだと感じます。
多くの設計者やデザイナーは現在、サステナブルなオプションを生み出すべく、たくさんの努力を重ねています。それ以外の生活者ができることとは──筆者はこの企画展を訪れて、それは「建設的なレビューを送ること」なのではないかと感じました。サステナブルな「新素材」と呼ばれるマテリアルの中には、今まで嗅いだことのないような酸味のある匂いを放つものもありました。果たしてそのような素材に囲まれて過ごしたいかと言われると疑問です。「食べられる包装」はごみが出ないという点では素晴らしいですが、ランニングの途中で包装ごと水を飲みたいかと言われるとそれも素直に首を振れません。新しいデザインが提案されるだけではなく、生活者がそれに対する違和感を見逃さず、デザインを磨き上げる意見がオープンに飛び交うようになると、さらにポジティブな未来が拓けるように思います。
【参照サイト】Design Museum – Waste Age: What can design do?
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営するIDEAS FOR GOODからの転載記事です。
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