北欧型リビングラボの実践に学ぶ、DXとオープンイノベーションを通じた持続可能なまちづくり【開催レポ】

北欧型リビングラボの実践に学ぶ、DXとオープンイノベーションを通じた持続可能なまちづくり【開催レポ】

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、18世紀後半の産業革命前に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creative企画ではこれまで、数々のイベントを開催してきました。(過去のイベント一覧)

9回目となる今回は、「北欧型リビングラボの実践に学ぶ、DXとオープンイノベーションを通じた持続可能なまちづくり」と題し、デンマークからロスキレ大学准教授の安岡美佳さんを招いて、循環するまちづくりのヒントを探りました。

この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。リビングラボの事例や、その活かし方とは?

話者プロフィール:安岡 美佳(やすおか・みか)

安岡 美佳ロスキレ大学准教授/メンバーズ社外取締役/一橋大学客員研究員。北欧におけるITシステム構築手法としての参加型デザインやリビングラボの理論と実践、それら手法の社会文化的影響に関心を持つ。近年では、IoTやコンピュータシステムが人々のより良い生活にどのように貢献できるか、社会において脱炭素DXをどのように進めていくのかという課題に、参加型デザインやリビングラボの知見を応用するプロジェクトに取り組んでいる。

「リビングラボ」を持続可能なまちづくりに活かす

まず、リビングラボとは一体どういうものでしょうか。リビングラボとは、「Living(生活空間)」と「Lab(実験場所)」を組み合わせた言葉です。その名の通り、研究開発の場を人々の生活空間の近くに置き、生活者視点に立った新しいサービスや商品を生み出す場所を指します。また、場所だけでなく、サービスや商品を生み出す一連の活動のことも指します。

ロスキレ大学准教授の安岡さんによると、北欧ではおよそ20年前から持続可能なまちづくりのためにこのリビングラボの手法が使われているそうです。イベントでは、持続可能なまちづくりのヒントになる、二つの北欧のリビングラボが紹介されました。

デンマーク・コペンハーゲン市

一つ目は、デンマーク・コペンハーゲン市の自転車モビリティです。コペンハーゲン市は2025年までにCO2ニュートラルを実現するという野心的な目標を掲げています。その目標を達成するためには車の排気ガス削減が必要不可欠であり、中心地への車の乗り入れ制限や一方通行・車両通行止めの増設、自転車専用道路の新設、駅周辺の駐輪場の設置を進めているそうです。

リビングラボ

安岡さんは、持続可能なまちを実現するためにリビングラボが鍵になっていると強調します。

「『車よりも自転車を積極的に使いましょう』という自治体や企業からのトップダウン方式の呼びかけでは広まっていきません。そうした手法ではなく、リビングラボのように、テスト段階から市民の目に触れ、市民が参加できるように工夫しながら、徐々に市民の生活に浸透させていくことが必要です。また、交通データを集計するだけでなく、電光掲示板で可視化しているのは、市民が持続可能なまちづくりに貢献できていることを実感しやすくするための仕掛けなのです。」

モビリティ

「右の写真は、コペンハーゲン市の自転車と自動車の交通の様子をアーティスティックにビジュアル化したものです。データを可視化することで、現状を分析した上で政策を考えることができます」

「まちのデータは公共財である」という考え方のもと、これらはオープンデータになっており、自治体だけでなく企業がサービス開発に活用することも可能だそうです。

スウェーデン・ストックホルム

二つ目に紹介する事例は、スウェーデン・ストックホルムのロイヤルシーポートです。ヨーロッパ最大の再開発プロジェクトの一つで、2025年に居住者1万人、2030年に脱炭素都市の達成を目指しています。

「特に興味深いのは、ダストシュート(街のごみ捨て装置)です。市民専用のごみ捨て場として、ストックホルムの地下にごみのダストシュートが設置されており、市民がチップやIDを当てると開くようになっています。ごみはそのまま流されていくのではなく、一旦溜めておきます。溜めている部分にセンサーがついており、そのセンサーでゴミの量を把握します。ある程度溜まったら蓋が開き、空気圧で近隣の集積所まで運ばれる仕組みです」

地下にごみのダストシュートを設置することでごみ収集車が入ってこない街のエリアができ、環境にもやさしいまちづくりにつながるのだと、安岡さんは話します。

ダストボックス

持続可能なまちづくりには、リビングラボが欠かせない

「持続可能なまちを完成させるには時間がかかるため、長いスパンで考える必要があります。開発段階から市民が持続可能なまちづくりに参加することで、市民の生活に少しずつ浸透していき、開発期間が終わった後も市民の生活に根付いていきます」

では、市民が持続可能なまちづくりに参加するにはどうしたら良いでしょうか。安岡さんは、想いがある人を起点に始めるのが大切だと言います。

「お金や情報といったリソースを持つ自治体や企業起点で始めようと思っても市民は寄ってきません。まずは私(市民)にとってメリットがある、という『ME』の視点から始めることが参加を呼び込む一番簡単な方法です」

リビング・ラボ

「左上の図にあるように、まずはステージ1から始まり、基盤を整えながらステージ5までまちづくりを進めていきます。ステージが上がるごとに、ME視点の人たちが次第に「WE(私たち)」を考えられるようになっていくのです。」

また、安岡さんは、「イノベーションエコシステムの4要素『主観的なインセンティブ』『熱意ある人』『アクセスしやすいリソース』『心理的安全性の高い環境』が、リビングラボが機能していくために欠かせない要件と一致するのではないか」という持論を展開。「参加型であること」がイノベーションの素地なのではと主張されました。

リビングラボとイノベーション

最後に、安岡さんは「皆で共創していかないと社会全体に根付いていきません。リビングラボは、全ての社会を構成する人がサステナブルなまちづくりに関わることを可能にする方法であり、ステークホルダーが同じ方向を向けるような共通目的を考えるきっかけになったり、共創相手と意見が対立したときのコミュニケーションツールとして活用できたりします。脱炭素を進めるには、リビングラボが欠かせないと考えています」と結びました。

北欧は以前からリビングラボを活用したまちづくりを進めています。コペンハーゲンの事例は、デンマークに自動車産業がないからこそできた政策であり、日本でそのまま真似するのは難しい部分もあるかもしれません。しかしながら、開発段階から市民をまちづくりに巻き込み、さまざまなステークホルダーが共通目的をもって進めていく手法は日本でも大いに活用できそうです。

次回のイベントも、ぜひご期待ください!

第2部では、日本のリビングラボ実践や、共創のポイントなどをClimate Creative事務局とディスカッションし、第3部でもイベントに参加した方々と安岡さんから学んだポイントをもとに日本の実践にどう落とし込むかについて対話をしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待いたします。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)

What Is Climate Change?-United Nation

Edited by Erika Tomiyama

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