【イベントレポート】サークルデザイン、造形構想によるサーキュラー・インキュベーション第1回講義を実施!

【イベントレポート】サークルデザイン、造形構想によるサーキュラー・インキュベーション第1回講義を実施!

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「CIRCULAR STARTUP TOKYO」からの転載記事です。

CIRCULAR STARTUP TOKYO」は、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業を支援するインキュベーションプログラムです。参加者はインキュベーション(キックオフ、サーキュラー・インキュベーション講義4回)、メンタリング、Demo Dayで構成されるプログラムの支援を受け、循環型バリューチェーンの実現を前提とした事業開発を目指します。

4月16日のキックオフに続き、4月23日には第1回サーキュラー・インキュベーション講義が実施され、サークルデザイン株式会社 代表取締役の那須清和氏と造形構想株式会社 代表取締役の峯村昇吾氏が講師として登壇。気鋭のスタートアップ経営者がそれぞれの視点から、サーキュラーエコノミーの押さえておくべきポイントやデザインリサーチの実践について語りました。ここでは当日、シティラボ東京会場とオンラインのハイブリットで実施された講義とワークショップの様子をレポートします。

「サーキュラーエコノミーとは?」

まず、サーキュラーエコノミーに特化した共創・コンサルティング・リサーチ・研修業務などを行うサークルデザイン株式会社の那須清和氏の講義がありました。那須氏は会場に「サーキュラーエコノミーとは?隣の人と2分間で話し合ってみてください」と投げかけました。シンプルな問いですが、参加者の回答は一様ではないことがわかります。

サーキュラーエコノミーは、なぜこれほどまで理解が難しいのでしょうか。那須氏は、サーキュラーエコノミーの概念が主に学問の世界で生まれ、政策の世界、さらにビジネスへと広がり、定義が多様化していった経緯を振り返りました。そして未だ実社会に具体的な形で導入され、一般消費者に浸透する前の段階にあることを、概念の把握が難しい要因の一つと言及しました。

ここで那須氏は、サーキュラーエコノミーの概念の生みの親とも言われる、スイスの建築家 ウォルター・R・シュタヘルの「Circular Economy is about caring」という言葉を引用。サーキュラーエコノミーとは、人間のウェルビーイングと負の環境影響をデカップリングしていくことなのではないか、との自身の見方と共に、ウォルターの言葉にある「care」すべき対象は「人」と「環境」なのではないか、という解釈を示しました。

さらに、かつて主に「モノ」によってニーズや欲求を満たしていた社会が、「アクセス」「コミュニティ」といった多様な手段を通して欲求を満たす社会へと変容しつつある現状について解説。モノよりも製品や資源の持つ価値に焦点が当たる時代において、サーキュラーエコノミーの貢献に期待を込めました。

サークルデザイン株式会社 那須清和氏

サーキュラーエコノミーの定義

間もなく発行されようとしている国際標準「ISO59004」では、サーキュラーエコノミーについての用語の定義がされています。講義では、さらに各国における定義として、欧州議会、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準内)、環境省の令和3年環境白書、経産省資源自律経済戦略からの抜粋を紹介。

それぞれ使われる文言に違いは見られますが、製品や材料をできるだけ長く、高い価値を保ったまま使っていくことを示す点では共通しています。

システム思考の重要性

那須氏は、資源を循環させるだけではサーキュラーエコノミーの実現は困難であり、ビジネスモデル、ステークホルダーとの協働、社会システムを俯瞰しながら循環化を進めることが大切であるとし、World Circular Economy Forum 2024でも取り上げられた「システム思考」の重要性に触れました。

例えば大企業では各部署と連携し、自らの部門が企業の中でどのような役割を果たすべきかを考えること、中小企業やスタートアップではサプライチェーンや全体のシステムを見据え、何を担うべきかを認識しておくことが重要となります。

3Rを拡張した「R戦略」

続いて那須氏が、サーキュラーエコノミーを理解するためのツールのひとつとして紹介したのは、「R戦略」です。これは、サーキュラーエコノミー推進に向けた戦略で、「リユース、リデュース、リサイクル」の3Rをさらに拡張させたもの。機能を廃止したり、違った製品形態で同じ機能を持たせたりすることで製品が不要となる「Refuse(拒否)」のほか、「Rethink(再考)」、「Repair(修理)」、「Refurbish(リファービッシュ)」、「Remanufacturing(リマニュファクチャリング)」、「Repurpose(再目的化)」、「Recover(回復)」を3Rに加えた全10項目が、循環性の高い順に並びます。

コミュニティベースの仕組みやシステム思考を取り入れた事例の紹介を経て、講義のトピックは「サーキュラーバリューチェーン」へと展開。

サーキュラーデザインを3つの観点から考える

那須氏は、サーキュラーエコノミーにフォーカスした取り組みにより、バリューチェーン内にネガティブなインパクトを与えてしまうようなことがないように、カーボンニュートラル/ネイチャーポジティブ/サーキュラーエコノミーの3つの観点を、統合的に捉えながらサーキュラーデザインを進めていく認識の必要性を訴えました。

また、サーキュラーデザインを俯瞰し、ビジネスモデルや社会システムの中でどのようなパートナーと組み、どう取り組むことでバリューチェーン全体の循環性を高められるのかを見据えていく必要があると説きました。

循環度の測定/評価ツールとは

代表的なサーキュラービジネスモデルと事例の紹介に続き、循環度測定の考え方が取り上げられました。

循環度の評価指標としては、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)E5やWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のCTI(Corcularity Transition indications)などの評価ツールでも共通する指標として、「インフロー」「アウトフロー」「戦略」「経済性」「循環利用」「水・エネルギー・自然」が挙げられました。

那須氏はここで代表的な循環度評価ツール6例を紹介し、循環度測定や環境評価に関する参加者から挙がっていた質問に回答する形で、講義を締め括りました。

「Design Research for Responsibility(応答するための、デザインリサーチ)」

続いて造形構想株式会社の峯村昇吾氏が登壇。FABRIC TOKYOに参画後、武蔵野美術大学大学院でデザインをバックグラウンドにサーキュラリティを研究してきた峯村氏。講義のテーマは「Design Research for Responsibility(応答するための、デザインリサーチ)」です。

造形構想株式会社 峯村昇吾氏

講義は「システミックチェンジ」からスタート。ここでは、従来型のリニアエコノミーから、サーキュラーエコノミーへの「仕組みの変革」を指す言葉です。

峯村氏は、これからシステミックチェンジを担っていくCIRCULAR STARTUP TOKYO参加者に求められるのは「エコシステムがどう循環しているのか、どう循環していないのかの現状」を認識し、そのうえで「エコシステム全体を改善する」方法を探る姿勢・態度であると提起しました。

Responsibility =応答できる能力

「(企業の)社会的責任」とも訳される「Responsibility」を、峯村氏は「response(応答する)」+「ability(能力)」に分解し、「応答できる能力」と定義。これから事業を始める参加者に向かい、誠実で確実な一歩を踏み出すために、その能力を身につけてほしいと語ります。

続いて峯村氏は、「応答するため」の「ビジョン駆動型の事業展開」について解説。まずこれまでの経験を通して見通した未来のシナリオである「ビジョン」から現在を「バックキャスト」し、そこから「フォーキャスト」することで、どう事業を進めていくのかを設定します。しかし現在地では社会構造が、厄介で意地悪で複雑な問題「wicked problem」を抱えています。ここからは、そんな現状においてエコシステム全体の改善にきちんと向き合い、応答していくための方法を学びます。

Defining the right problem(正しい問題定義)の重要性

「Defining the right problem(正しい問題定義)」の重要性を認識するために、峯村氏がまず紹介したのは、ファッション産業の大量廃棄問題でした。

環境省が課題として挙げる家庭から廃棄される衣類の量は年間48万トン。しかし、衣類の各ライフサイクルにおけるCO2排出量を比較すると、実は廃棄の割合は1.2%に過ぎません。原材料の調達(46.8%)、紡績(14.9%)、染色(28.9%)と、衣服の縫製前の工程で実に90.6%のCO2が排出されているのです。「本当に解くべき課題に、私たちは取り組めているのだろうか?」。峯村氏はたたみかけます。

日本では2021年、アパレル企業が共同で循環を目指すための「ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)」を設立。そのコミットメントのひとつに「サプライヤー・顧客に働きかけ、バリューチェーン全体の透明化に努める」が挙げられています。これは、それまでアパレル業界の現状や各社の取り組みが不透明だったことを意味すると指摘する峯村氏。

技術イノベーションの結果、地球環境問題が改善されるべきところ、温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっているというデータもあります。正しい課題設定とソリューションの見極めができず、構造的な社会システムや産業システムのダークパターンに向き合うことなく闇雲に対策を講じてきた現状を、峯村氏は「⼀切の応答をしていない(=irresponsibility)」と表現しました。

ここで、正解がない、基準もないwicked problemに向き合い、仕組みを変えていくことの難しさを語った峯村氏が、難題に対峙し、「応答する」手法として提唱するのは「デザイン」です。

デザインリサーチの手法と、具体的な事例

デザインは、古くから「現状を好ましい状態へ変えること」と定義され、「人間の活動の基礎」とも言われてきました。講義では、不確実性や曖昧性を受け入れながら、それに対して新たな意味を創造することを「デザイン態度」とする考えも紹介されました。

峯村氏は、リサーチ・結合→コンセプト・プロタイプ作り→デザインというプロセスにおいて、現状を把握するために行ったり来たりしながらカオスと対峙することを「リサーチ」とし、そのリサーチを経て未来を見通すことが求められていると強調。システムを現状把握するための具体的な手法として、エレン・マッカーサー財団のバタフライダイアグラムの事例を挙げ、概要を紹介しました。

さらに峯村氏は、会場にも展示された「サーキュラーダイアグラム」を提示。武蔵野美術大学大学院在学中の峯村氏が、ファッション産業の現状把握と未来のシナリオ設定のために独自リサーチを重ね、「作り手」「売り手・使い手」「政策」それぞれの領域をゾーニングして作成したものです。そのダイアグラムの構成や作成手順が共有されました。

峯村氏による「サーキュラーダイアグラム」

プログラム参加者による発表動画を繰り返し視聴したという峯村氏。資源循環に関わる領域を図解したマップに各参加者の事業内容を落とし込み、それぞれの事業がどの領域でどのようなインパクトを与えられるのかを俯瞰しつつ、参加者へコメントやアドバイスを行いました。

解決策のプロトタイピングについて

このように現状を把握した上で、ここからは、どのようなコンセプトを描き、どんな一歩を踏み出せばよいのかを考えます。

複雑化し、正解がわからないような課題に対峙する状態では、仮説を立ててそれを検証していく手法は相性が悪く、難しいと話す峯村氏。「解決策のプロトタイピングについて」として、「アブダクション」「エフェクチュエーション」という2つの思考法を提唱しました。アブダクションは、まず試行してみて新しい仮説を見つけ出す思考法、エフェクチュエーションは、見方・視点・切り取り方を変える論理や思考プロセスです。エフェクチュエーションの具体例も紹介されました。

最後に峯村氏は、リサーチを進めることで、夢を見るのではなく「生々しい、具体的な未来」を見通し、その未来に着実な一歩を踏み出すことが大切であると説き、参加者を鼓舞しました。

ワークショップ

講義終了後には、ワークショップを実施。講義の感想や学びがあった点、今後の事業づくりに生かしていきたいことなどを発表し合う場となりました。会場では峯村氏、オンラインでは那須氏が、各参加者へのアドバイスを行うなど、循環型ビジネスモデルを構築する有意義な時間となりました。

ワークショップの様子
参加者
参加者
会場の参加者間、オンライン参加者間で次のような意見・感想や事業の方向性がシェアされ、峯村氏・那須氏も参加者とコメントを交わしました。

  • 根本的に市場がどうなっているかを深く理解していくことで、これまで抱えていた不安が払拭できると思った。同時に、ここを深く理解していければ、産廃に関するバックグラウンドがなくても戦うチャンスがあるとポジティブに捉えられた。(難波亮太/株式会社EcoLooopers)
  • これまでは自分自身がフィジカルなものをたくさん作って売るということをやってきたが、このプロジェクトの中では、ものは基本作らない。無形資産、特に人の信頼や思いを価値化していけるとそれがサーキュラーエコノミーになるのではないかと考えている。(福留聖樹/LiNk合同会社)
  • 水質汚濁を解決したいという想いがあったが、CO2削減なども含め、業界全体をどうサーキュラーにしていくべきかという視点が抜けているという気づきがあった。どのようなリスクが発生するのかを見ていくのも重要。抜け漏れがないように網羅的・俯瞰的な視点を持ちたい。(岩澤宏樹/株式会社水と古民家)

自分の事業を取り巻くエコシステムをもっと掘り下げ、解像度を上げていきたいという意見は、多数挙がりました。

峯村氏は、「この横つながりで得た良いポイントを吸収し、自社に活かしていくことがとても大事。エフェクチュエーションの例のように、見方・切り取り方を変え、色々な視点を取りこみ、他社の良い点を自分の事業に還元するスキルを身につけてほしい」とコメントしています。

講師との質疑応答や意見交換をはさみ、第1回講義はクロージングの時間を迎えました。

次回は2回目のサーキュラー・インキュベーション講義。テーマは「サーキュラーエコノミーとビジネスモデル」と「サーキュラーエコノミーとスタートアップ実践(2)」です。

参加者は今後、講義のほかに専属メンターやスペシャリストメンターによるメンタリングの機会を得て学びを深め、Demo Dayに向けてプロジェクトを推進します。各参加者のブラッシュアップに期待です!

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