【イベントレポ】気候危機時代の人材開発とキャリアデザイン。これからのサステナビリティ人材とは?
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。
気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。
気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。
私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上に大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。
Climate Creativeではこれまで、数々のイベントを開催してきました。(過去のイベント一覧)
13回目となる今回は、「気候危機時代の人材開発とキャリアデザイン。これからのサステナビリティ人材とは?」と題し、一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所・Hoopus.(フ―パス)事務局(以下、Hoopus.)の林恵美さんをお招きしました。
この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。
話者プロフィール:林 恵美(一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所 Hoopus. 事務局)
(株)ベネッセコーポレーションで情報誌の企画・ 編集を経験した後、欧州滞在を機に、環境問題の非営利セクターへキャリアシフト。2015年から国際環境NGOグリーンピース・ジャパンでデジタルコミュニケーションを担当し、現在は気候変動コミュニケーションを専門とする団体と複業する形で、求人サービスHoopus.の事務局にて、サステナビリティ・環境問題を仕事にしたいという方々の転職をサポートしている。
倉地 栄子(株式会社メンバーズ)
カナダ政府局(NPO)で難民・移民保護支援活動を経て、メンバーズに入社。デジタルを中心に社会課題解決型のマーケティングやコミュニケーションのプロジェクトプランニングを推進。2023年から脱炭素DXカンパニーに所属し企業の脱炭素事業の支援を開始。趣味は、スノーボード、サーフィン、畑など自然と関わる遊びが好き。
“社会のOSをアップデート”する非営利セクターならではの役割
Hoopus.は気候変動の課題解決に特化した求人プラットフォームとして、2021年に鎌倉サステナビリティ研究所(KSI)が始めたサービスです。気候変動の課題解決には、政府・自治体、企業、非営利セクターなどさまざまな立場から関わることができますが、Hoopus.は特に非営利セクターの求人に着目していると、林さんは言います。
「どんどん気候危機が悪化する中、非営利セクターは”社会のOSをアップデートする”役割を担っていると考えています。『2030年までに気温上昇を1.5℃に抑える』という大きな目標を実現するには、今の社会のままでは難しい。1.5℃に整合するための後押しをすることや、変化を起こす・求めるアクターを増やすことが非営利セクターならではの役割だと思います」
では、1.5℃に整合する社会を実現するために、非営利セクターは具体的にどのように社会と関わることができるのでしょうか。
「1.5℃に整合する社会を実現するためには、大きく分けて政策、産業、金融における3つの転換が必要になりますが、その大きな転換を支えるために人々の考え方を変えることや、発信の内容を変えることを通して世論を転換する必要があります。世論の転換を支えるものとして、社会変革を起こす人々をエンパワーメントするというコミュニティの転換も必要となってきます。
このように各セクターでの変革が求められる中で、非営利セクターはそれぞれの強みを活かして各セクターの変革を促すアプローチができます。たとえば、調査や分析、ロビーイング、キャンペーン、コミュニティ形成といったアプローチ方法などです」
非営利セクターの求人トレンドに大きな変化も
林さんによると、非営利セクターの求人トレンドが大きく変わってきているといいます。
「これまでは非営利セクターの中だけで人材が行き来するような、ある種閉ざされた状況にありました。ところが、2015年にパリ協定が締結され、気候変動に対する認識が世界的に進み、日本でも脱炭素の動きが活発化しています。結果、これまでの『大きな共通認識をつくる』というフェーズから具体的な連携、政府との協力関係をつくることが重要となりました。何をどの程度変えれば共通目標を達成できるかや、どのようなアクターに働きかける必要があるかが問われ、それに伴って非営利セクターが求められることも変化してきています。たとえば、これまで以上に企業との連携が求められるため、企業の人々が理解しやすい言語で話せる人や、企業から信頼を得られるような人材の必要性が高まっています」
国際団体も日本での活動を強化する動きが活発になってきており、それによって日本人人材の需要が高まっているという動きもあります。1.5℃目標に対して日本が果たさなければならない役割は大きいにもかかわらず、日本が定めた削減目標は消極的であること、鉄鋼業や自動車産業など排出量の大きい産業が日本の主産業であることから、日本の削減目標を引き上げていかないと1.5℃に抑えられない、という背景があるそうです。
気候危機時代における企業の役割の変化。サステナビリティ経営に移行したメンバーズ社の軌跡
また、気候危機時代において、非営利セクターだけでなく企業に対して求められる責任や役割も変化してきています。
サステナビリティ経営の歴史を振り返ると、経済・社会・環境が個別に存在していた状態から、環境と社会という基盤があって経済活動が成り立つという考えにシフトしてきました。近年の企業の傾向として、社会課題への貢献やCO2削減の取り組みをコストではなく価値として捉えながら、利益を追求していくことが求められています。
株式会社メンバーズは「気候変動・人口減少を中心とした社会課題解決に貢献し、持続可能社会への変革をリードする」というビジョンのもと、「はかる」「へらす」「かせぐ」をキーワードに、プロジェクトマネジメント力と、カーボンリテラシーを持つGX人材がクライアント先に常駐し、社会課題の解決に取り組んでいます。
- はかる:サステナビリティ業務高度化、排出量算定、社内浸透支援
- へらす:サプライチェーン、デジタルチャネルの脱炭素化
- かせぐ:脱炭素マーケティング&プロダクト開発支援
しかし、メンバーズは創業当初からサステナビリティ経営に取り組んでいたわけではないと、倉地さんはいいます。
「メンバーズは、元々はIT企業として1993年に創業されました。当時の企業にありがちだと思いますが、目先の利益を優先した結果、離職率の上昇、人材の流出、売上の低迷につながりました。そこで、人材に注力する、社会課題を事業で解決する、社員の幸せを考えるというCSV経営に力を入れたことにより、離職率の低下や、売上の向上につながったという経緯があります」
CSV経営を推進する人材を育成する取り組みの一環に、ソーシャルベンチャーへの若手社員の無償留学やNPO・NGOとのプロボノ活動を積極的に推進することなどが挙げられます。提供先にデジタルの知見を提供することで人材不足の解消や企業との共創機会を生んでいきながら、メンバーズ社員にとっては社会課題の発見と解決に向けた学びが得られる、双方良しの関係を築いています。
その他にも、2023年4月に「脱炭素アクション100」という脱炭素におけるアクションを設定し、社員がアクションの中から選んで実行、報告。そしてそのアクションの効果をCO2排出の削減貢献量に換算するというものです。バックオフィスを含めて全員が参加でき、社員が「脱炭素アクション100」に取り組むことで新たな社会課題の発見につながります。
「サステナビリティ人材とは、特定のポジションにいる人材や決められたスキルセットを持つ人材を指すのではなく、ビジネスで社会課題を解決する人のことだと広くとらえています。社員全員が『私はサステナビリティ人材だ』という意識を持っていないと社会は変わっていきません」
気候危機時代において、非営利セクターや企業に対して求められる役割が変化してきています。組織の形は色々あれど、組織に所属する一人ひとりが気候危機に対する意識や危機感を持って取り組んでいくことが重要でしょう。林さんや倉地さんのお話を受け、参加者からは「企業で培った経験やスキルを具体的に非営利セクターでどのように生かせるか?」という質問や、キャリア形成を考える学生さんからの質問も寄せられ、第2部・第3部も議論を深めていきました。
次回のイベントも、ぜひご期待ください!
※1 What Is Climate Change?-United Nation
【参照サイト】1.5度目標とは
Edited by Erika Tomiyama
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